乾いたレモンが危険信号?【仕込むべきもの】と【お店の都合で仕込むもの】の違い

前回の居酒屋繋がりのお話で、もうひとつ。

居酒屋で仕込むものには、実は二種類存在します。

それが本記事のテーマでもある、「お客様の為に仕込むべきもの」と「お店の都合で仕込むもの」です。

そして、その目線を大事にされているかどうか。

それがひと目で判断できるのが、料理に添えてあるレモンです。

お店での仕込とは

基本的に外食は、店舗に届いた、あらゆる素材を加工することで、新たな付加価値をつけて、来て頂いたお客様に販売して売上を立てます。

この「加工作業」が「仕込」と呼ばれます。

「居酒屋は仕込が9割」と呼ばれるほど、仕込作業は、その日の営業を満足するものにできるのかどうかを分ける、とても大切な作業となります。

例えば、お刺身の注文を受けてから、いちからお魚をさばき始めたり、煮込みの注文を受けてから、いちから煮込み始めるのは現実的ではありませんし、僕の知る限り存在しません。

お客様の為に、仕込むべきもの

仕込とは、「注文を受けたら、すぐに提供できるように下準備しておく」ことといえます。

これが、お客様に仕込む「あるべき姿」だと思っています。

なにが言いたいかというと、「お店都合の仕込を行っているお店が多い」ということです。

ご納得いただけると思いますが、料理はやっぱり、出来立てが一番おいしいんです。

出来立てとはつまり、「切りたて、焼きたて、揚げたて、盛りたて」のことです。

しかし、長く調理をしていると、少しづつ「お店都合」の仕込になっていくお店が多い。

「お店都合」とは、注文を受けた時に、少しでも「調理者の負担」を軽減するような仕込のことで、

お店都合の仕込を、具体的に言えば

・刺身をサク(ブロック保存)ではなく一貫ずつ切り置き保存している

・出汁巻き卵を予め巻いておく

・添え物(レモンなど)の切り置きをしている

などがイメージしやすいと思います。

もちろんケースバイケースで、大人数の宴会が入っていたり、予約がパンパンで混雑状況に目途が立つ場合などは、やっておいた方がいい時もあります。

しかし、これはあくまで特殊なケースで、平時の時も同じような仕込をするのは、個人的には危険信号だと思っています。

なぜなら火を入れたり、包丁を入れた部分が多いほど(空気と触れる断面が多いほど)、その瞬間から、どんどん鮮度や旨みは失われていくからです。

スピードを意識しているのか、ただ楽をしたいだけなのか

酷な言い方をすると、これだけだと思います。

特に、僕が視察するときによく確認していたのは、「添え物のレモン」です。

なぜならレモンは特に乾燥が早く、「盛る直前に切ったのか、元々切り置きしていたのか」は、断面をみれば直ぐにわかります。

そしてどんなにおいしい料理でも、添えてあるレモンがカラカラな状態だと、とても残念な気持ちになってしまいます。

お客様目線の難しさ

僕も自分でお店を運営していた際は、「切り置きNG」でした。

しかし、他のスタッフにも浸透させ、同じようにやって頂くのは難しかったです。

なぜなら調理スタッフは、「注文を受けた料理をなるべく早く、正確に提供する」ことが使命であり、

「お客様からの請求(料理の催促)だけは絶対に避けなければいけない」という暗黙のルールが存在します。

このことから、「いかに素早く提供できるか」という「スタッフ目線の仕込」を優先しがちになってしまい、どうしてもお客様目線での仕込が薄れていくのです。

つまり僕(オーナー)の注文内容は、「請求(提供の遅配)はNGだけど、調理の工程は予め楽をせず、なるべく直前でやっていこうね」

というものであり、ある種矛盾にも感じとれるようなものとなります。

こんなの簡単じゃん。その場でレモン切るだけっしょ。

と思う方も多いと思います。

しかし、キッチンの混雑時は、まさに戦場そのもので、まさしく「一分一秒が惜しい」という状態です。

例えば注文を受けると「チビ券」と呼ばれる縦2cm、横5cmほどの伝票がキッチンに流れてきます。

これが混雑時になると、1m、2mといった長さで矢継ぎ早に流れてくるんです。またチビ券にはそれぞれ数量が記載されているので、「チビ券一枚が一つの料理」という訳でもなく、チビ券1つに5つ、6つの数量のある注文というものもザラにあります。

この状況の中、頭でソロバンを弾きながら段取りを組み、一秒でも効率よく提供しようとみんな必死になります。

だからこそ、その工夫の一環として、予め添え物のレモンなども切っておいておきたくなるんです。

気持ちはよくわかりますし、難しいことは承知しています。

しかし、「繁盛店」と呼ばれるお店は、これらの条件を当たり前のようにクリアしていることもまた事実です。

居酒屋の繁盛店は全体の一割だけ

よく居酒屋業界でいわれるのが、「本物の繁盛店は一割だけ」ということです。

僕のお店も繁盛店とは程遠いものでしたが、「繁盛させてやる」という意識だけはありました。

「このままでいい」という気持ちではなく「いつか必ず繁盛店にする」という気持ちは、どこのお店でも抱いていると思います。

しかし、これだけ多くの店舗が存在する中、実際の繁盛店は一割だけです。

「繁盛店になりたければ、一割の発想をするのではなく、九割(これまで)の発想をやめる」

この言葉は、外食セミナーに参加したさい、有名な講師の方が仰られていた言葉で、今でも印象深く残っています。

ロッククライミングでも、さらに上に登るためには、今支えている手を、一旦離さなければいけません。

今まで自分目線でやっていたな。心当たりあるな。

という方は、少しずつ、小さなことからでも、より良くするために変化させていってはいかがでしょうか。

すべてのレモンが、ぴちぴちの潤いある姿になることを祈っています( *´艸`)おしまい

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